T. 細胞外にDNAおよびRNAを生産する細菌:基礎と核酸医薬製造への応用

 遺伝現象を担うDNAやRNAの居場所は、細胞の中と決まっている。 しかし近年、これらDNA、RNAを細胞外に吐き出している細菌が多数見出されている。 海洋性光合成細菌Rhodovulum sulfidophilum もその一つである。 当研究室では、これら細胞外のDNA、RNAの構造および新機能の解析を行い、 これらの核酸がフロックと呼ばれる菌の凝集体の維持に重要な役割をもっていることを明らかにした。 また、これら菌体外の核酸は、培養条件により、フロック形成ばかりでなく、培地に溶けだすようになることもわかった。
 一方で、近年遺伝子発現制御機能を持つ機能性RNA(siRNA、RNAアプタマーやリボザイムなど)ががんなどに対する夢の治療薬となることが 期待されている。当研究室では、この菌の性質を利用し、遺伝子工学の手法により、 核酸医薬を効率的に培地に生産するシステムの研究を進めている(本ホームページ2010年の公表論文参照)。 これにより、これまでの化学的合成法や試験管内転写よりもコスト面で圧倒的に有利なRNA生産法が確立されようとしている。

Fig. 1 Rdv. sulfidophilum
フロック形成




U. 進化工学による機能性高分子の創製

 本テーマは、 地球上に生物が誕生し進化した過程を「もの作り」に利用できるのではないかと考えるものである。
生物は、とてつもなく複雑で精巧な分子機械と見ることができる。 これは、誰が設計したのでもなく、地球上に自然に発生したものである。 この自然の過程(化学進化を含めたダーウィン進化)を模倣することにより、 役に立つ機能性高分子を創ることができるのではないだろうか。
 ダーウィン進化では、i)遺伝子への多様性の導入、ii)適者生存による自然選択、iii)選択されたものの増幅、 が繰り返される。本テーマでは、これを試験管内で人為的に行い、有用な高分子を創製できるような方法論を確立しようとしている。 具体的には、ランダム配列のRNA の集団の中から、プロテアーゼやオリゴ糖などに結合するRNA (この様な性質をもつものをアプタマーという)を取得し、逆転写により、DNA に変換後、 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。 これを繰り返し試験管内ダーウィン進化 を行うことにより、酵素の機能を変換したり、 オリゴ糖精製に有用であったり、さらには、環境微生物の同定や探索に有用な機能性高分子を創製しようと 研究を進めている。 すでに微生物のタンパク質分解酵素阻害機能をもつ全く新しいRNAの創製に成功し、 解析が進んでいる。 これは世界で初めての菌体外酵素に対するRNA型阻害剤で、 酵素の安定化剤や反応制御のための分子スイッチとしての応用が期待されている。

Fig. 2 RNAアプタマーのSELEX



V. RNase PとtRNAに関する研究

 リボヌクレアーゼ P(RNase P)は、転移RNA(tRNA)前駆体の5'プロセシングを触媒し、 成熟した5'末端を持つtRNAを生産する普遍的な酵素である。 真正細菌のRNase P RNAは、試験管においてタンパク質成分なしで触媒活性を持つリボザイムである。
 近年、成熟したtRNAを生産するはずのRNase PがtRNAを成熟分子内で切断し、破壊してしまうという異常反応が発見された。 この反応はハイパープロセシングと呼ばれている。 本研究は、RNAワールド時代からの分子化石と考えられるRNase P リボザイムの触媒する通常の切断反応と、 異常な切断反応(ハイパープロセス)を通じてこのリボザイムの基質認識、反応機構を明らかにすることを目的としている。 この研究により、独創的なリボザイム系の創製、tRNA及びRNase Pリボザイムの起源の問題、RNase Pを用いた遺伝子発現制御等、 様々な側面への貢献が期待できる。

Fig. 3 大腸菌のRNase P RNA

Fig. 4 大腸菌のRNase P 3D模式図


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